top of page
pht-55.jpg

屋上

 石垣島には直方体の建物が多い。台風による風圧や塩害から身を守るために、鉄筋コンクリートで堅牢に作られている。直方体なので自然屋上というスペースが生まれる。

 街を歩いていると、屋上の全容は見えないけれど、スペースを利用して何かを置いていたり、何かを作っている気配のある建物を見かける。「どんな空間になっているのだろうか?」と見てみたくなる。

 実際に上ってみると、貯水タンクや室外機、使わなくなったアナログアンテナなど屋上特有の物たちが “味気なく在る” 風景が多い。上り続けていると、錆びたボロボロの自転車など屋上に似つかわしくない物たちが “なぜか在る” 風景を発見したりする。

 特に屋上植物は面白い。鉢で育てているが規則性があるような無いような置き方をされていたり、育った緑が自生化して一面を埋め尽くすまで拡がっていたり、住人によって秩序が与えられスペース全体が畑となったものもあった。屋上菜園を目の前にした時は、不思議な感覚になった。

 今回は石垣島の市街地をフィールドとして、様々な屋上の姿を写しました。亜熱帯の屋上、そこには都市化されないアナーキーなゾーンがまだ残っていました。

撮影期間 2019年7月〜8月

Epilogue

   屋上の図鑑を作りたい、と思った。

   もともと「空中庭園」という写真構想があった。花や緑に覆われた屋上を撮るというものだった。実行するには至らなかったが、頭の片隅には残り続けていた。

 

   ちょうどその頃、路上を撮り続けていた。地面にメインポジションを取って、街と人を写していた。地面という立ち位置から見える世界にのめり込んでいた。

 

   屋上は地面とパラレルに存在する、もう一つの地面だ。ふと思ったとき、寝ていた構想が急に起き上がった。それからは早かった。屋上の行者となった。空想した空中庭園が存在するのかどうか分からなかったが、とにかく上ることにした。

 

   セキュリティに無頓着な建物は、多少の勇気があれば、外階段から屋上まで上ることができた。もう少しで屋上という所で、障害物や鉄柵があったりもした。屋上を見たいという熱量だけで、多少の障害物は乗り越えた。

   屋上は所有者が好きなように使えるゾーンになっている。そして地上からは見えないゾーン。縦方向の外に突き出したプライベート空間になっている。むき出しで、常に風雨にさらされている。整えても無駄骨をくらう場所。それでもスペースを利用して何かをしようとする。その痕跡だけが放置されていた。そこには人間と世界の何かしらの距離感があった。

bottom of page